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「あんた、まさか……!」
「言っただろう、味見したと。まったく、冬眞が来たせいで萎えてしまった。私は部屋に戻るとしよう」
踵を返し、慣れた立ち振舞いで畳の上を歩き、ご丁寧にも引き戸を閉めると足音は遠ざかっていった。
それに合わせ、潤の膝が畳の上についた。
「潤!」
冬眞が潤を支えるようにしゃがみこむと、おずおずと潤の肩にそっと手を添えた。
「ごめん、親父が……。本当にごめん。これから用があるときは呼んでくれたら俺が行くから。こっちに来なくていいから」
な?、と優しく問い掛けてくる冬眞の声をどこか遠くに聞いていた。頭が真っ白に近い。
「……触るな」
「潤」
肩にあった手を払いのけ、潤は身なりを手早く整える。
誰が見ても分かるほど傷ついた顔をしている冬眞を見ないふりをして部屋を飛び出した。
足がもつれて転けそうになったが、そんなことはどうでもよかった。
ただ一秒でも早くこの家から出たかった。
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