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「ああそうだな。だが、次の当主は冬眞。お前だ。この意味は分かるだろう?」
「――っ」
実の父親を殴りそうになっている右手を冬眞は冷静な左手で押さえ込んだ。
震えているのが分かる。
右手にだけ血が流れていっているかのような感覚がする。
いやに左手が冷たい。
潤にだけは知られたくなかった。否、知ってほしくなかった。
風間家と大谷家の爛れた関係など。
「それにしても冬眞がゲイだっていうことを潤くんに言わなかったんだ。感謝してほしいくらいだな」
「……あんた最悪だな」
「誉め言葉を感謝するよ」
口角を上げるだけの笑みをすると、冬眞の父親である秀二はコートの裾を翻し奥の書斎へと消えていった。
「くそっ……」
冬眞はやり場のない怒りを雑誌ごと地面に叩きつけた。
色が変わるほど唇を噛み締め前を見据えた。
腹立たしいのは、父親に対してではなく何も出来ない幼い自分自身だ。
「冬眞……」
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