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伸びてきた手は首を掴む。
強く。
強く、掴む。
鮮明な記憶に……吐き気すら覚えて。
「…………っ」
身を起こす。
「……芙蓉?」
朔の声が現実に連れ戻してくれた。
「朔……」
酷く顔色の悪い芙蓉に気付き、朔もまた身を起こし、芙蓉の頬に触れる。
「……夢見が悪そうだね」
夜が長くて仕方がない。
あれからまだ2時間経っていない。
「…………」
芙蓉は何も言わず、静かに目を伏せた。
言葉を全て飲み込んで、自分の胸の内に秘めてしまうから、朔にはそれが悲しかった。
起き上がり抱き寄せると芙蓉は抗わなかった。
傍にいるのに、その心まで護れない……傍にいるのに、芙蓉を危険に晒してしまった。
首の痣は消えたが強かに打ち付けられた肩の痣はまだ熱を持つほど。
服の端をそっと掴まれたのを感じて、なんだか堪らなくなって掻き抱く。
朔の腕の中、芙蓉は安堵したのか段々力を抜いていく。
やがて眠りに落ちたのを認めた朔はその耳に囁く。
「悪しき夢は全て僕が引き受けるから……」
だからどうか……
芙蓉は優しい夢を見て欲しい。
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