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*** 「華南ではくれぐれも無理せず療養するように。いいね?芙蓉からも目を離さぬように」 「はい」 喀血は治まっており、発作の間隔も広くなりつつあった。 「近い内に顔を見に行くからくれぐれも仕事はするなよ」 「善処します」 朔は飛高の言葉に苦笑で返した。 「ですが父上……」 「ん?」 「多忙は人を狂わせると言いますが……余りある休暇も人を容易に狂わせます……」 「……覚えておこう」 「ありがとうございます」 恭介の車で華南に戻るも早々にあてがわれている室に追いやられた朔は仕方なく従った。 窓際に座ると、少しだけ窓を開けて、流れる空気を感じて息をつく。 神威と比べると殺伐とした雰囲気は幾ばくか薄いため息をしやすく、安堵する。 胸の痛みを誤魔化しながらパソコンの前に座り直す朔の額を軽く叩き、芙蓉は朔の腕を掴むとベッドまで連行する。 「ちょっと確認」「寝てからだ」 朔の言葉に被せる勢いで黙らせる芙蓉。 「……はい」 胸の痛みを隠そうとするも芙蓉はお見通しで傍らに座る芙蓉の手を握るとひょいと身体を倒され、膝枕を提供されていた。
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