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乱雑とした部屋。
遠目からみるといくつものビルが辺りに点在しているように見える。
実際にはビルではなく分厚い本がいくつも積み上げられた簡素なブックタワーなんだけど。
てっぺんには雪の代わりに、時を重ねるごとに溶けることなく積もった埃がオブジェになっている。
薄暗い部屋の中に射し込む光に照らされ、くっきりと見えるは中に舞う埃と俺。
平然とした表情で空気の悪さを気にすることなく、単調なペースで書物のページを捲る仕草はどこか自動人形かもしれない。
自分で言うのも変だけど。
向かいでは小さな少女が乱雑に積み重ねられた本を前に、腕組みしながら考え込んでいる。
考えること数秒、積み重ねられた本の真ん中を掴み、息を殺して静かに引っ張り始めた。
最初はゆっくり、二分の一まで抜けたら勢い良く引っ張る。
本の塔は真ん中のスペースを空けた状態で、崩れることなく悠然とその高さを維持していた。
「やたです!」
ちょっと意地悪をしてみたくなったので、読んでいた本乱暴に置いてみた。
バタン!
分厚い本を置いた振動がジェンガと化していた少女の目の前の積み重ねられた本に伝わり、
ガタガタガタ!
勢い良く崩れた。
結果、
「ゲホゲホ! へくちゅでちゅ!」
盛大に舞った埃にまみれた少女は可愛らしいくしゃみをしていた。
今とある人気ゲームのボスキャラの名前を可愛く言わなかった?
そう思ったけど敢えて突っ込まずに静かに見守る。
「うう。崩れた、楓の家が崩れたでつ・・・・・・ぐず」
俺の家はそんな耐震性皆無の柔なものじゃありません。
まあいいや。それよりも小腹が好いたので、
「それよりこれからドーナッツでも食べに行くか?」
「うへ! ど、どなどな! 私売られるの?」
頭の中に素晴らしいトランジスターが搭載されている。そうとしか思えないほどの聞き間違えなだ。あとで大学病院の知り合いに献体してみようか。
まあ労力の無駄になる突っ込みとボケの負のスパイラルを断ち切る為に、
「支度しろ」
誤解を解かずに放置。
我ながら鬼である。
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