彼女と私と、時々ゆうやけ

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蹴られた。 ひとまずわかったのはそれだけ。地面に突っ伏す情けない自分の姿が頭に浮かんで顔が熱くなったのが分かった。 「こらっ、伊織っ!」 「んにゃ?どしたの、千佳りん」 「どしたのじゃないっ!人にとび蹴りくらわしておいてっ!」 「ただのスキンシップだってー」 「なにがスキンシップだ、バカたれっ!」 「千佳りん、怖いよー」 「誰のせいだっ!」 悪びれもせずにやにや笑っているそいつの顔を蹴り倒してやりたくなる。実際は顔まで足が届かないので、お尻あたりを蹴りつけたけれど。 痛いーって叫んでる伊織を放って、カバンをひっつかんで歩き出す。制服に汚れがついているけれどもう気にしたら負けな気がした。 ちょうど10歩。 私が歩いたら、後ろから伊織が抱きついてきて。これもいつものこと。 「千佳りん、千佳りん」 「なに、バカ伊織」 「バカはひどいよー」 「うるさい、ばか」 「うーっ、バカバカっ」 「伊織、歩きにくい」 「千佳りんのバカぁーっ」 「バカって言うほうがバカ」 会話が進まない。 でもこれもいつものこと。 そっと伊織を地面に下ろして歩き始めれば、今度は横に並んで伊織が私の名前を呼ぶ。 自然とつながれた右手。 それから自然に合う視線がもどかしくて、結局は私の期限は元通り。 そんな自分が悔しいのに、苦しいくらいにドキドキするその胸だけは本物で。 すぐ隣で満面の笑みを浮かべている伊織の唇に目が行ってしまうのはもう自分ではどうにもならないんだ。 「千佳りんっ」 「んー?」 「大好きー」 「…っ、知らないっ」 「んにゃ?嬉しくない?」 「知らないってばっ」 「千佳りん?」 顔を覗き込んでくる伊織が憎たらしい。 なんでこんなやつなのかな。 私のことなんか、何にも考えてないくせに。こういうときばっかり見つめてくれちゃってさ。 私にどうしろっていうのよ。 素直になればいい? それともこのままの関係を続ける? 伊織の笑顔が輝くだけ、私の心は雨模様。悔しいくらいに。 .
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