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「千佳りん、どうしたの?」
「……どうもしないわよ」
「嘘ー、千佳りん嘘つきだー」
「……嘘じゃないわよ。ほんとに何でもないから」
「うー……、ならいい」
ほんとは何でもある。
ぐるぐる胸の中を何かが駆け巡って気持ちが悪かった。
伊織が覗き込んでくるたびに、胸が苦しくなって余計に苦しくなるから、放っておいてほしいくらい。保健室に逃げ込もうかと思ったけれど、なおさら伊織を寄せ付けるだろうと思ってやめておいた。
伊織は私に興味をなくしたのか、クラスの友達とお喋りしている。満面の笑みを浮かべながらいつだってクラスの中心を陣取っている伊織は相変わらず。
頬杖を突きながら、誰とも一緒になることなく、その様子を遠巻きから眺める私も相変わらず。
でも、もうそれがいいと思っていた。私と一緒にいれば伊織が困るだろうし。
楽チンだ。
でもひどく苦しい。
私にだけあの笑顔を向けてくれたら、なんて考えてまた落ち込む。私はそんなに弱くはないと思ってたから。
いつも通りじゃないか。
ただ伊織への想いを強く感じてしまっても、私は私。
それなのに、急に私を苦しめるのはなんで?
やっぱり気分が悪い。
保健室に行けば、苦しみなんて感じることなく眠れるかもしれない。そうだ、そうしよう。
ポタリと何かが落ちた気がした。ホントは何か分かってたけど、気づかない振りをして。
前髪が長くて助かったと思った。きっと伊織に顔を見られたら騒がれるに違いない。
教室のドアがやけに重く感じて、私は相当まいっているのだと思った。たぶんこれ以上がないほど。
伊織のバーカ。
憎まれ口は得意だ。
1人になるためにはとても有効な手段で、その割にはとても簡単。
言葉にならず、空気だけが外に飛び出た。口にしなくたって私は1人。
もう、1人きり。
みーんな消えちゃえ。
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