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当たり前の結果だった。誰も私に近づかなくなって。
授業が終わってから、今までの小さかった私の居場所すら教室の中から消えていて。
子どもの私は瞳を閉じて我慢するしかなかった。
伊織は戻って来ないまま、放課後。いつもと変わらないはずの重たいランドセル。
真っ赤な太陽が私に影を落として、それを引きずりながら歩けば、ソコにいたのは、
―――伊織。
ほっぺたの大きな絆創膏。顔の半分くらい覆ってしまいそうなほどおっきな。
ひどく痛々しい、けれど伊織は笑顔だった。
差し出されは手は迷いがなくて、真っ直ぐ私を捕まえていた。
「帰ろう、千佳りんっ」
*******
一瞬だけ昔の残像とかぶって、まばたきする。
消えたのは昔。
でも変わらない。
伊織は笑ったまま、真っ直ぐに手を伸ばして。透き通った瞳はまた私に語りかけてくるんだ。
――バカじゃないの。
「・・・バカじゃないの」
「千佳りん?」
「バカじゃないのっ!」
ホントに伊織はわかったない。私の苦しみなんてこれっぽっちも考えないくせに。何も知らないくせに。
勝手に優しくしないで。
もう私に笑顔を向けないでよ。
「・・・・・もう私に構わないで」
「・・・なんで?」
「いいからっ!・・・構わないで」
「なんでそんなこと言うの?」
「・・・・・・伊織は、何も知らない・・・、知らないじゃない」
私の想いなんて。
何も知らないでしょう?
だから―――
「知ってるよ。ぜーんぶ」
「・・・は?」
口から出た言葉は疑問形。
私のことなんか気にしないで伊織は笑う。とても綺麗に。
変わらない笑顔。
少したれた目をもっと細めて、笑ってる。
「んふふー、千佳りんって私のこと大好きでしょ?」
そうだよねって伊織は笑う。
間違ってない。
間違ってないけれど。
核心をついた答えではあるけれど、それまでの複雑な私の想いを無視してる、そんな言葉。
やっぱり何もわかってない。
――私も伊織も。
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