届け

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パソコンばかり眺めていると、気が滅入る。もうなれてしまったはずのデスクワークは今日は何故だかはかどらなかった。 「ふぅ・・・」 「沙希さん、お疲れですか?」 後輩の那奈ちゃんが肩越しに覗き込んでいるのをパソコン画面で確認して、ぼんやりした頭で、そうかもねと答えておく。 「最近遅くまで残ってるみたいですし、代わりに私がやっときましょうか?」 「気持ちは嬉しいけど、これは私の仕事だから気にしないで」 「・・・わかりました」 とても良い娘だ。 気が利くし、礼儀正しくて、しかも可愛い。男性社員はもちろん、女性社員の中でも人気者。 そんな完璧なはずの彼女の秘密を知ったのは、一週間前の飲み会の席。 親睦会と評して開かれた会はストレス発散の格好の場としてその意義をなしていた。飲めや食えやのどんちゃん騒ぎ。まさにそこはカオスだった。 ハンドルキーパーの私はそんな異次元を尻目に、ウーロン茶をちびちび飲みながら会場を見渡して。 見つけた。 やけに人だかりが出来てる一画。 あまりの人の多さに中心の人物は見えないが、見当はつく。わが社のアイドル、高島那奈。 この時はただの先輩後輩。 特別な因縁もなし。仕事の会話しかしないそんな関係だった。のに。 「やばっ、おいっ、東!」 急に呼ばれる。 (ちなみに東とは私の名字だ。) 呼んだのは、課長。 ってあのえろ親父、てめぇまで那奈ちゃんにたかってやがったのか。 頭の片隅で毒づきながら、集団に近づく。何がどうしたのか、皆目見当がつかなかった。 「那奈ちゃんが具合悪そうなんだっ、面倒見てやってくれ!」 然り気無く良い年した親父がちやん付けすんな。 「ってか、なんで私がっ・・・」 そこまで言って口を閉じる。 そう、まさに生者のいない地獄が広がっていた。 仕方ない。 ため息をつかないように気を付けながらそっと覗きこむ。 ふむ。確かに那奈ちゃんの顔色は芳しくない。たぶん飲みすぎなんだろうけど。 「那奈ちゃん、立てる?トイレ行こっか」 「・・・は、い」 そう、これが始まり。 .
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