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そっと肩を支えてやりながら、歩幅を合わせる。
「何かあったら、すぐに呼んでね」
「・・・はい」
個室にぶちこんで、すぐに逃げる。
他人が吐いているだろう音なんて聞きたくはないし、なんとなく近くに居づらかったこともあって、トイレの入り口にもたれ掛かる。
あーあ、可哀想に。
きっと愛想良く笑っていたら、飲ませられたんだろう。ホントにうちの男たちは気が利かないんだから。
若い女の子に気を使わせて、自分たちだけ気分良くしちゃってさ。
なんかムシャクシャするなぁとか思いながら、眉間にシワを寄せていると、水の流れる音。
出てきたんだなと思って、ちょうど個室から出てきた彼女と鉢合わせ。幾分顔色が良くなっていると良いのだけれど。
「大丈夫?」
声をかける。
手洗い場の彼女の背中越しに鏡に写る私からは俯いた彼女の表情は見えない。
もう一度、大丈夫と聞いてみる。
パッと顔をあげた彼女の一言には、最初訳が分からなかった。
「・・・み、き・・・さん?」
確かにそう言った。
決して私の名前じゃない。
誰、その名前?
そう聞こうとした私を制止したのは、ほどよい衝撃と温かさ。
「・・・っ、・・・あ、いたかった」
そう言って彼女は泣き出した。
一連の流れに私はついていけなかった。
なんだこれ?
そう頭のなかでは考えていた。
それでも腕のなかで小さく震える那奈ちゃんを突き放すなんて考えは全くなく、ただぎゅっと抱き締めていた。
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