問題用紙

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桜は散った。 私はそれを眺めていることしかできないから、春は嫌いだった。 保健室の独特のにおいは私の心を落ち着かせるけど、きっとそんなのは見せかけ。 シャーペンを一度くるりと回すと、珍しく指から離れて床に落ちてしまった。最悪 「また来てる」 「あっ、先生・・・」 「まだ教室いけそうにない?」 「・・・うん」 教室は嫌い。 人が密集した独特のにおい。 愛想笑いと欺瞞が渦巻いている嫌なにおいが充満して。 そんなところに行けるわけないし。そんなだから私は苛められるし、なおさら教室に行きたくなくなるんだ。 いわゆる保健室登校。 でもそれでも今はいいと思える。それは、 「ちゃんと勉強してしてる?」 「うん、当たり前」 「へえー、どれどれ・・・。って全然書いてないじゃないっ!?」 「そんなことないよー」 「いいからちゃんと勉強しなさい」 「・・・はーい」 先生のおかげ。 苛められて居場所がなくなった私をかくまってくれて。 そんな私が先生に恋心を抱くまで時間はかからなかった。 可愛いその笑顔に。 優しく頭を撫でてくれる掌に。 つややかな唇に。 私の意識が奪われて。 それは自然の摂理のように。 私は彼女に惹かれていった。 「先生、ここ」 「なになに?」 「この問題」 「んーとね、ここは・・・」 いつの間にか。 先生は私の家庭教師のように勉強を教えてくれるようになって。 幸せと戸惑いが同居したひと時は、今日はなぜか違った。 「君は高校生にしては大人っぽいね」 「先生それって、私が老けてるってこと?」 「違う違う。そのままの意味だよ」 「やっぱり老けてるってことじゃん」 「なんていうか・・・綺麗ってことだよ。うん、そんな感じ」 「でも、なんかショック・・・」 わざとしょぼんとすると、先生は、じゃあ私はどうなるって眉をひそめて怒ったように言った。 「先生、十分若いじゃん」 「高校生に言われても嫌味にしか感じないよ」 「嫌味じゃないよっ、本気」 「ふふっ、わかってるよ。そんなに必死にならなくてもね」 「子ども扱いして」 「高校生はまだ子供だよ」 先生は私の頭を撫でた。 きゅんと胸が締め付けられるみたいだった。 .
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