届け

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しばらくそうしていた。 彼女の震える体は見た目通り可憐で、力を籠めたら崩れてしまいそうだ。 それなのに、すごく柔らかくていつまでも抱きしめていたい気分になる。まるで抱き枕。 だからなのかこの暖かさを離したくなくて、言葉をかけるのは気が引けた。 でも、それは短い時間。腕の中で那奈ちゃんが身じろぎする。 「・・・ぅ、むぅ」 「大丈夫?」 「・・・沙、希・・・さん?」 「気分悪かったりしない?」 「・・・・・・っ、はい、大丈夫ですっ!」 「わっ」 突き飛ばされるように、離れていく。ひやりとした風が肌を撫でる。頭から水をかけられた気分だ。 なにやってんだ私。 固執するなんてらしくないじゃない。 いつも通りにふるまえばいいんだから。クールに、無機質に。 「もう、大丈夫そうだね」 「・・・はい」 「じゃあ、行こっか。男たちが待ってるよ」 「あっ、あのっ」 「私先行ってるから」 「沙希さんっ」 さっきは呆けて意識していなかったが、那奈ちゃんが私の下の名前を呼ぶのは二回目だ。 その新鮮な感じに背中がくすぐったくなる。と同時に、理性が私を押しとどめる。 那奈ちゃんはこっちを見つめていた。 私はそっと視線を外す。 聞きたくないセリフが聞こえてきそうで、胃が重たくなる。 さっと背を向けて、逃げ出してしまえば楽だった。だけれど私の足は縫い付けられたように動かない。 那奈ちゃんはゆっくりと口を開く。 「・・・・・・なにも、聞かないんですか?」 「何を?」 「さっきの、ことです」 「・・・聞いてほしいの?」 いいえ、と答えてくれるのを期待していた。しかし彼女は、 「沙希さんになら、・・・聞いてほしいです」 その瞳に涙の影がちらついた。だから私は。 「・・・・・・わかった」 頷いていた。 .
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