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「先生…」
「ん、どうしたの?」
どうしてなんだろう。
こんなにも好きって気持ちがあふれそうなのに、きっとあなたには気づいてもらえないってわかってる。
口に出さないと、伝わらないことは十分に知っているのに。
それでも私はあなたに気付いてほしくて、その瞳を見つめてしまう。そしてまた呼んでるんだ。先生って。
「先生って、さ」
「んー」
「…恋人とかいるの?」
「女子高生の好物だよねー、そういう話」
「……そうかもしれない」
どちらも黙る。
口を開いたのは私で、話題を振ってのは私なのに、どうしても続きを口にできないでいた。
先生もくるりと一度だけボールペンを器用に回して、机に広げられた問題用紙をじっと見つめていた。
苦しかった。
沈黙が一秒ごとに私を追い詰めていくのがわかって。そんな淀んだ空気を吐き出そうとおなかに力を入れた時だった。
「・・・居るよ」
ポツリと先生から漏れた言葉を私は受け取り損ねた。一瞬大きな何かが過ぎ去った気がして、反射的に目を閉じてクッと顎を引いて。
「・・・・・・そっか」
私にはこれが精一杯。
涙をこぼさなかっただけ自分をほめてあげたいくらい。
もうここに来る理由はないかな、なんて。
これで本当に。
本当に最後だった居場所が無くなってしまって。どこで涙を流せばいいんだろう。誰が私を見てくれるんだろう。
両親は満足に学校に通えない私にはまったくの興味はないから。親友どころか友達すら居ない私に何が残っているか考えて。
すぐに止めた。
答えは考えるまえに知っていたから。
「・・・・・どんな人?」
「えっ?」
「先生の好きな人。・・・どんな人なの?」
苦し紛れの言葉だった。
沈黙に耐えられないだろうから、私は心にもない言葉を吐く。さっきまで溢れそうだった好きの気持ちと一緒に。
どんどん空っぽになっていく胸の中が寂しくて涙が落ちたかもしれないけれど、下を向いていたおかげで助かったと思った。
「・・・・・・すごく不器用な人」
小さく漏れた声は聞き損うくらい小さかったけど、不思議と響く。先生が息を吐くのがわかった。
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