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3秒くらい。
沈黙が続いて。
先生が背伸びをして、問題から目をそらしたのが合図だった。
授業終了のチャイム。
一気に騒がしくなる学校に急に現実に引き戻された気がした。もうこの話はおしまいだ。
手の甲でぐいっと目をこすって、顔を上げれば私に背を向けた先生がいて。私に一言。
私の立場でこんなこと言うのなんだけど。なんて言い訳がましくつぶやいた後。
「いつでも来ていいからね」
ぱたぱたスリッパを鳴らしながら保健室を出ていく先生。もう私には何も言えなかった。
先生ってひどいよね。
そんなこと言われたら、私はきっともう教室には行かないだろうし、先生のこともっと好きになっちゃうよ。
あなたはきっとそんなこと知らないんだろうけど。私にとってその言葉は十分なものだったから。
その背中を抱きしめて首筋にキスしたいくらい。ほんとに好きなんだよ。
「……バカぁ。……好きだよ、せんせー」
口にしたら、苦しかった。
苦しくて、苦しくて。それでも吐き出さずにはいられないこの気持ちは酷く拙いけれど。
それこそ涙が出るくらい大切なものなんだって。きっとずっと抱きしめていく想いなんだって。
先生に好きな人が居ても、それは変わらない。変わってくれない想いだから余計に辛くなるのは私だけれど。
今の私を造ってるのは、きっとそんな程度の想いなんだ。先生が好きだっていう単純な。
「勉強……がんばろうかな」
そうしたら、先生はきっと私を褒めてくれるに違いない。いい子だねって、そう言って頭を撫でてくれるに違いない。
きゅっとシャーペンを握った。一度だけ回してその感触を確かめてから、問題用紙に向かう。
いつか聞いてみたい。
この問題分からないんですって。
問題用紙の中。
「私は先生のことが好きです。先生はどう思ってますか?」
なんてさ。
END
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