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そっと触れてみた。
ピクリと動いて、唸る君にクラス中が笑う。
「おい。加藤」
「ひゃいっ!・・・なんでしょう?」
「授業中に寝るなー」
「了解でーす・・・。むぅ・・・」
「おい。・・・隣、殴って起こせ」
へーい。
隣の男子がめんどくさそうに返事して。ポカリと殴られた君は急に立ち上がった。
「わっ!」
「加藤。いい加減にしろよー」
「うわっ・・・すみません」
「わかったら、座れ」
「はーい」
教師が背を向けるとばっと振り向く加藤夏美。私は無表情で迎え入れる。
「咲。起こしてくれたっていいのに」
「寝てるナツが悪いよ」
「咲のケチ」
「ごめんね。ケチで」
ほんとに最悪だ。
ナツはそういってまた前を向く。
丁度のタイミングで教師がこちらを向いたのを確認して。
窓の外を眺めている。
いつの間にか気持ちよかった春が過ぎ去って、もうすぐ近づいてくるだろう夏を思って。
頬杖をついたまま、ため息をついた。今はまだいらないだろうけど、冷房設備のないこの教室は夏になるとサウナみたいになるし、運動嫌いな私には夏という季節はただ熱いだけのいやな季節。
もう一度ため息。
「仲野。そんなに俺の授業がいやなのか?」
「えっ?」
「窓の外ばかり見ないで、ちゃんと聞いとけよ」
「あっ、はい」
「ったく・・・」
地味な私が注意されても、クラスは笑わないし、だれも注目しない。
私は気にしないし。
むしろ注目されるのは嫌いだから。
何もなかったようにノートを見つめるとそこには数字の羅列。
もうすぐ本格的な受験シーズンが来るだろうから、まじめを自負している私はノートはしっかりとる組。
ナツは後で人に頭を下げてノートを写させてもらう組。
もうすぐナツだ。
君の季節がやってくるんだろうな。
やっぱりため息。
でも嫌いじゃなかったりするんだ。
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