あついのは苦手

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「お願いっ」 手を合わせて頭を下げるナツを一瞥して、帰りの準備。教科書は置いて帰らないからいつもかばんは重くなる。 じっと動かないナツ。 ついに無視しきれなくなって声をかけるしかなくて。 「ナツ」 「ん?」 「また?」 「だってー・・・うぅ」 「ナツが授業聞かないからだよ?」 「だって、眠いんだもん!」 「そんなの知らない。大体この前のが最後ってナツが言ったよね?」 「・・・そうだっけ?・・・・・・ごめんなさーいっ」 「まったくー。今回が最後だよ?」 「うんっ、咲ありがとっ!大好きー」 彼女の抱擁をさっとよけて。 窓の外を眺める。空の頂点の時は白く見える太陽は不思議なくらいに今は真っ赤。 部活中のクラブとか。 帰宅中の生徒たちを3階から見下ろして。 楽しげな声は意外とわずらわしくて。肌に感じ始める少しの熱気にうんざりして。 嬉々としてノートを写しているナツが少し可愛く見えて。 ごちゃまぜの複雑な心境を持て余したまま、ノート写しに没頭する彼女の頭をなでた。肩までくらいの彼女の髪は手入れが行き届いていてサラサラ。 指をすり抜ける細い髪とか。 手のひらにじんわり伝える彼女のあったかさとか。 全部。 愛おしく感じるにはもちろん。 彼女を一番愛しているからで。 元気なところとか。 ムードメーカーなところとか。 笑顔が可愛いところとか。 私を一番に頼ってくれるところとか。 すべてひっくるめて大好きなんだなと思う。無口で感情を表に出すのが苦手な私はその想いを外に出すことはないのだけれど。 「咲、くすぐったいよ」 「あっ、ごめんなさい。・・・嫌、だった?」 「ううん。うれしかったよ」 「そっか」 「咲が頭撫でてくれたのなんて久しぶり」 「そうだっけ?」 なんて。 そうだったかもしれないって思う直した。 彼女と付き合いだしたのが一年前。同じクラスの前後の席になったのがきっかけで、惹かれるように仲良くなって。 自然に。 運命のように。 どちらともなく繋ぎ合った手が絆の証で。 どちらともなく触れ合った唇が愛情の証で。 今こうして私たちは二人だ。 それはすごく幸せなこと。 すごく幸せなこと。 .
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