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「ぬあぁーっ!!ないっ!ない!!ない、ない、無いーっ!」
突然の叫び声に、思わずびくっ、体が竦んだ。
慌てて声が聞こえた方を振り向くと、今さっき叫び声をあげていたはずの東吾が、頭を抱えて床にうずくまっている。低い呻きと額を痛そうに押さえている様子から、何が起こったか大体の予想はついた。
……そういえば、叫び声の後に何やら鈍い音が聞こえたような気もする。
「…………うるっさい。いきなりオペラ歌手みたいな声量で叫ぶな、単細胞生物」
そう、手に……東吾の頭を殴ったとみて間違いないだろう……ハードカバーの分厚い本を持ちながら、雪は今日も素晴らしく機嫌の悪い様子でのたまった。ちょっと口調も荒れ気味なので、冷ややかな声がより恐ろしく聞こえてしまう。
「あーあ、だからって角で殴ることないでしょう?これ以上東吾の頭がバカになったらどうするんですか」
言いながら、悠は東吾を引っ張りあげて起こそうとしたが……三人組の中でも一番体格の小さい彼は、がっちり大柄な東吾との差に潰されそうになって、すぐに諦めたようだった。
「大丈夫。今でさえ学年最下位だからこれ以上悪くなりようがない」
「…………なるほど」
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