冬の闇

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冬の闇

  もうだめだと 薄暗い部屋の隅で ひとり小さく座り 雨の音すら聴かず 偽善を味わってただ居る 何も考えずにただ居る そんな振りをしながら 結局 彼のことばかり考えている ヒーターの熱が届かない と 寒がり悪態を吐き よくわからない吐き気がする と 昼食を食べるのを控え いま彼は何処にいるのでしょう 私のことを少しは思っているでしょうか それとも心のうちで遠く またひとりで泣いているのでしょうか 人間であるよろこび 責任 現代は闇のなか もう目も耳も要らないらしい ひとを感じるだけ 彼は現代を忘れて 今を生きる 私にもできたなら 彼はきっといつかにも生きている 私も彼の斜め後ろで生きている 空気や目線や顔がすべてを形作る 言葉や文字は置いてきたらいい リズムや音や佇まいがすべてを物語る 理論や感動は置いてきたらいい そうやって生きたらいい  
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