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その頃、真夜はというと――。
クスクスと、愉しそうに笑っていた。
「酒呑に茨木かぁ……これからが楽しみな盗賊の卵達だね」
[愉しそうだな、真夜]
「愉しいより楽しみ、かな」
[こっちの苦労も知らないで]
何故かさっきより大きくなっている犬――というより狐――の背に跨がりながら言う真夜の言葉に、
誰かが疲れたように応える。
「人間は妖とは違って寿命があるから、ちょっとした苦労は見逃してよ、玉藻」
真夜以外に話せる存在など居ないだろうに、真夜は気にした風もなくその声に応えた。
一歩狐が踏み出す毎に、その姿が変わり――
毛並は煌めきを帯び
尻尾が増え
頬や目許に紋様が顕れていく。
[――……喩え真夜が老い、その命尽きようと……我は変わらぬ。
我が心は、永久に真夜と共に在るのだから]
真剣そのものといった声音で告げるその声に、
真夜は小さく苦笑した。
「真面目だねぇ。
俺が死んだ後くらい、自由に生きたら良いのにさ」
[ならぬ。
真夜の移り気を知っていながら離れるなど、愚の骨頂]
「う……移り気……」
[真夜のことだ、死して尚傍に在らねば鬼どもに盗られる]
溜め息を吐かんばかりの勢いで言う声。
「流石に死んだら大人しいと思うんだけど……」
苦笑したまま言う真夜に、声の主が鼻を鳴らす。
[死ねば大人しくなる?
真夜がそんな人間ならば、我とて苦労しておらぬ]
「酷……」
そこまで言うか、と言いながら狐の背……肩胛骨の間を人差し指でつつく。
[――……だが。
真夜が他の、普通の人間と大差ないような者であったなら――
我は、惹かれなどしなかった]
「……!
はっきり言ったね」
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