Prologue

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ローレアス大陸の東に位置するこの山脈は常に冬が支配していると言っても過言ではない 寒さのため昼夜を問わず吹き続ける冷たい風によって、ガラスを砕いたような氷雪の息吹が舞う光景は美しく、幻想的でありどこか荘厳な印象を与える 氷雪の嵐は山脈一帯を白銀の世界へと染め上げていた ──創世記で冥界を統べる神と関わりの深いこの山脈は冥界の神の名から[セダルベイト山脈]と呼ばれていた 山脈の中でも特に険しい雪山を越えようとしている一人の旅人がいる その旅人はソリに乗せられた大きな荷物を引きずりながら歩いている 装備から判断すれば雪山を越えている旅人のようだが、旅人の着ている厚い外套には所々赤黒い血痕が付いているためただの旅人ではないことがわかる 夏、常にこの山脈に吹く氷雪の嵐は比較的穏やかなものに変わる 標高の低い山を選べば山脈を越える事は可能である しかし季節は今、冬である 旅人は夏でさえ忌避される険しい山々ばかりを選んで雪山を越えていった 旅人が刻む足跡は吹き荒れる氷雪の嵐に掻き消され、残ることはなかった .
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