第五章 人形の欠片

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       ***  月喰人の身体能力は計り知れない。  走りながら、ベリアローズは後ろを振り返る。  追い掛けてくる子供の影は徐々に距離を詰めてきていた。爛々と、牙を剥く獣のような眼光を湛えた儘、こちらへ向かってくる。  しかし矢張り、殺気は感じられない。  先刻感じた違和感。  すっきりしない感覚に眉を寄せながら、ベリアローズは壁の手前でくるりと方向を変える。月喰人を正面に捕らえ、地を蹴った。  一瞬で縮まる距離、振り上げられた双刃に意識を集中させながら、射程に入った瞬間、斜め上からクロスに裂こうとするその切っ先を諸共せずスピードを上げる。  僅かズレの生じたタイミングに、ぴくりと刃の動きを鈍らせる――その小さな隙を、ベリアローズは見逃さない。  見計らったかのように踏み込むと、月喰人の胸部を靴底でしっかりと捕らえた。踏み台にするように蹴り飛ばしながら、ベリアローズは高く、後方へ跳躍する。
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