第27話 一度目の告白②

1/1
前へ
/29ページ
次へ

第27話 一度目の告白②

 水崎君が遅番に入っていた頃には、既にストーキングに遭っていた事。犯人が遅番の宮下さんである目星が付いている事。最近は遅番の帰り道だけでなく、大学や私生活でさえも視線を感じる時があるという事。  今抱えている不安な気持ちを、全て話した。 「……気が付かなくてごめん」 「何で何で!? 水崎君が謝る事なんて無いよ!」  逆に謝られてしまった。  本当に謝らなければいけないのは、楽しいデート中、いきなりこんな重い話をして場を暗くしている私の方なのに。 「私こそごめんね! いきなりこんな話されても反応に困っちゃうよね!」 「困るっつーか……大丈夫なのか?」 「私ならまだ大丈夫! 実害も今の所は出てないしね」 「これから何かありそうな言い方だな」  意図していた訳では無いけど、鋭いなぁ。  実を言うと、近い内に何かがありそうな予感がしてるんだよね。ただの直感だけど。 「何も無いと良いんだけどね」 「無理に笑わなくて良いから」 「無理なんかして無いよ! 今まで誰にも言えなかったから、水崎君に聞いて貰えただけでも何だかスッキリした!」 「警察とか……」 「良く聞くじゃない? 何か被害が出てからじゃないと動いてくれないってさ」 「それはそうだけど……」 「じゃあ、これで話はおしまい。聞いてくれてありがとう」 「僕に何か出来る事は無いか……?」 「その気持ちだけで嬉しいよ」  今はただ、聞いておいて貰いたかっただけ。  言っておかなければいけない事だったから。  思い出すと本当は怖くて仕方ない。  泣きそうになる気持ちを、かろうじて押し殺す。 「ねね、何かアトラクションに入ろうよ」 「そんな事より――」 「今度暗い顔したら怒るからね?」  自分から暗くさせたのに身勝手な私。 「分かったよ……」 「じゃあ何にしよっか」 「うん……」 「水崎君……!」 「ごめん、やっぱ無理だ。こんな話を聞いておいて、そんな簡単には気持ちを切り替えられない」 「……だから大丈夫だって――」 「だったら……どうして泣いてるんだよ」  そう言われ、自分の頬を伝っていく感触に気が付いた。 「あれ……あれ……?」  一度気付くと、もう止まらない。 「おかしいな……! こんな筈じゃ……」 「我慢しなくて良いから」  そう言って私の元に近付き、優しく抱き寄せてくれる。  私の涙腺は、もう限界だった。 「水崎……君……っ…………っ……!」  年甲斐もなく、思いっきり泣いた。  張り詰めていた何かが、はじける様に。  水崎君の温かさが伝わってくる。  どの位泣いていただろう。  少し落ち着きを取り戻し、腫れぼったく感じる目を開く。  視界に写ったのは、両手で掴んでいた事と、涙でグシャグシャになってしまっている水崎君のパーカーだった。 「少しは落ち着いた?」  優しい顔で微笑んでいる。 「ご、ごめんね! こんな――」  慌てて離れようとしたけれど、居心地の良さからなのか、泣き疲れて力が入らないからなのか、躊躇(ためら)ってしまう。 「大丈夫だよ」  そんな私を再度優しく抱きしめてくれる。  それに甘え、私も再び目を瞑った。 「……幸せ」  不安で一杯だった気持ちが、嘘の様に無くなっていく。 「……幸せ?」 「うん、幸せ……」 「なら良かった」 「うん……」  って、あれ……。  私、声に出してた……?  急に恥ずかしくなり、目を開けられそうにない。  どうしよう……。 「見てあれ~。初々(ういうい)しい~」  そこで周りから聞こえてくる声に気が付いた。  きっと通行人の人達に見られてるんだ。  恥ずかしいーー。  耳まで熱くなっていく。  顔が隠れている私はまだ良いけど、水崎君はもっと恥ずかしい思いをしている筈。どのタイミングで離れればいいの……。 「今なら大丈夫だよ」  察してくれていたのか、水崎君が静かに耳元で囁く。    その言葉を聞いて、目は瞑ったまま、静かに静かに水崎君の胸の中から離れていく。  ある程度離れたと感じ、目を開ける。 「大丈夫?」  まじまじ顔を見つめると、身体全体が燃えそうな程、熱くなるのを感じた。そう言ってくれている水崎君の顔も赤い。 「う、うん……。もう大丈夫……」 「そっか……」  視線を逸らし、頭を掻いている。 「洋服、本当にごめんね」 「そんなの全然気にしなくて良いって。僕の方こそごめんな」 「水崎君は何も悪くないよ」 「いやほら……勝手に抱きしめ……ちゃったし」 「ううん…………嬉しかった」 「はは……」  沈黙が流れる。 「水崎君てさ、凄いよね」 「僕が……?」 「うん。遅番に入った時、優衣ちゃんや佐藤君の事も諦めなかったし」 「あれは、あいつらが本当は仕事が出来るだけだったって話だよ」 「それに気付けたのは、水崎君がしっかりあの子達を見ていたからでしょ?」 「そんな事は――」 「あるよ。謙遜し過ぎ。私だってあの頃、やる気が無かったとまでは言わないけど、全部自分一人でやればいいんだって、諦めてたもん」 「あぁ、それは分かってた。全部やろうとしてたもんな」 「うん。愛想だって良くなかったから、私の事も嫌いだったでしょ?」 「はは。嫌いでは無かったけど、確かに最初は苦手意識持ってたかもな」 「そうだよね」 「でも今は違うからな?」 「うん、それは分かってるつもりだよ。帰り道、毎回送ってくれたよね」 「そりゃ、心配だしな」 「どうして私が家の前まで送って貰わなかったか分かる?」 「そんなに仲良くない奴に家は知られたくないからだろ?」 「宮下さんには何回か家まで送って貰った事があってね。凄く後悔した……。だから水崎君の事も警戒してたんだ。ごめんね」 「謝る事無いよ。女の子なんだし、それが正解だと僕も思うよ」 「私なんか可愛くないし、自惚れてる訳じゃ無いけど、そこから怖くなっちゃって……」 「そんな事……でも、それは怖くもなるよな」 「だけど、水崎君は察してくれてたよね」 「そんな大げさなもんじゃないけどさ」 「ううん。水崎君は優しいから、いっつもそうやって気を遣ってくれて……」 「優しくはないけど――」 「仕事が出来ても威張らない、そのくせ困った人を放っておけなくて、自分の事は後回し」 「誰の悪口も言わないし、一緒に居ると楽しくて安心して」 「優しくて格好良い……」 「……そんな水崎君の事が――――私は大好きです」 「良かったら、私と結婚を前提にお付き合いしてくれないかな」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加