第1話 非日常の始まり

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第1話 非日常の始まり

 僕の名前は水崎目依斗(みずさきめいと)。歳は20歳。  しがない普通の高校生……じゃなかった、高校を卒業してから約1年。世間一般でいうフリーターって奴だ。  いや、待てよ。  今はバイト探し中で働いてはいない訳だから、ひょっとしてニー……。  深く考えるのはよそう。  僕と同じ境遇の人なんざ、この世の中には五万といる事だろうよ。  まぁ確かに、世間からすると駄目人間という不名誉なレッテルを貼られてしまっているのかもしれないが、そんなのは気にしない。  大切なのはこれからだろ?  今がこんなであっても、これから先、未来にどうしているかの方が重要だと僕はそう思う。  友達と同じように大学へ行き、何かのサークルに入り、まったりと大学ライフを味わうという生活。僕だってその道を考えていなかった訳ではない。ただ、大学に入るにもそれなりに必要な物がある。  そう、お金だ。  とは言ったものの、別段これと言って大学に入るお金が無かった訳ではなかったのだが、目標もなく、とりあえず大学に入るっていうのも父親に申し訳なかったからである。  父には大学に行けと散々反対されたが、僕はそれも跳ねのけてこの道を選んだ。  それならば、バイトなり何なりをしながら、これからの行く末を考えていこうと、そう思ったのだ。まぁ、社会勉強も兼ねてって感じでさ。  家には僕と父の二人しかいないからな。  元の家族構成は、僕、妹、父、母、の四人家族だったのだが、僕がまだ幼かった頃に離婚し、僕は父親に引き取られて家に残る事になり、妹は母親に連れられて出て行ったという訳だ。  離婚の理由は、まだ小さかった事もあり正直よく分かっていない。  というよりも詳しくは聞かされていなかったと思う。  あれからもう10年以上も経ち、一度も会わず連絡も取らずで、僕の記憶から母と妹との記憶が消えかかっている。そんな気さえする。  恐らくだが父は、僕に会いに行って欲しくないのだと思う。  会ってしまうと、僕は母親の元へ行きたがるのではないか?妹や母と黙って何処かに行ってしまうのではないか?等、父親ながらに思う事があるのだろう。  今更そんな事する訳ないのにな。  だから僕は会いたいとは言わないし、思わない。  これからも()()()()()頑張って行こうと、そう思っていたから。  つい最近まで働いていたコンビニは、悲しい事に閉店してしまった為、最近はバイト探しだと名目を決め、街中をふらついている事が多い。  今日もバイト探しから帰ってきた僕は、いつもの様にただいまーと呟く。  父は仕事柄、帰って来るのが遅いので、誰に言うでもなく独り言の様になっている。  だが今日は、何だかリビングの方から話し声が聞こえてくる。  家は一戸建ての平家なので、縦横に長い家だ。  玄関入ってすぐ右には僕の部屋があり、向かい側には元妹の部屋。一番奥がリビングで、そこへ続く廊下の両サイドに風呂やトイレや父の部屋等がある。  話し声のする方、リビングへと足を進めると。  バンッ!! 「ってぇ!!」  いきなり扉が開き、もろに鼻を痛打した。 「~~つっ」  声にならず悶絶する。 「ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!?」  慌てふためいた様子で近付き、倒れた僕を抱き起す女性。 「へっ……?」  あまりに唐突な出来事に訳が分からず、ポカーンとその女性を見つめる僕。鼻血がツーっと垂れてくる。  何これ夢? 夢なの? 起きなきゃ! 起きなきゃなの?  訳が分からん事を考えていた。 「た、ただいまって聞こえたものですから、お迎えにと思って……」  涙目になる女性。 「だ、大丈夫ですよ。こんなの大した事じゃないですから!」  ハッと何かから目覚めた様に返事をする。 「……本当にごめんなさい」  今にも泣き出しそうなか弱い声で、そう言ってポケットからハンカチを取り出し、血を拭おうとする女性をグルンと右に回転して、見事に回避した。 「洗えば大丈夫ですからー!!」  そしてダッシュで洗面所へと向かう。  ふぅー。  蛇口をひねり、冷たい水で顔もとい血を洗い流す。  これで少しは冷静になれ……るわけねえぇぇーー!  ヤバかった。まじヤバかった。何がヤバいって、色々とヤバいけどとにかくヤバかった。まず誰!? あのめちゃ可愛い子! 抱き抱えられちゃったよ! 生まれて初めて女の子に抱きしめられちゃったよ!!  頭の中で良い様に解釈された。  女の子独特のほんのり良い香りがして……。  まぁ、鼻血出てて九割位が鉄っぽい匂いだったけど。  胸の鼓動がバクバクと、まるで全力疾走をした後の様に脈を打ち、まだ少々鼻がヒリヒリしている。それでも一応顔は綺麗になった。  よし! と気合を入れてリビングに向かおうと洗面所の扉を開ける。  バンッ! 「あッ!」  何かにぶつかった。  まさかと思い、恐る恐る扉の向こう側を覗くと、先程の女性が床にしゃがみ込んでおでこを擦っていた。  さっきはポカーンとしていてあまりしっかりとは見ていなかったけど、髪は黒髪に、癖のない綺麗なストレートのセミロング。歳は僕よりも少し上だろうか。服装は全体的に白と青でコーディネートされている。ロングのシャツにミニ過ぎないミニスカートに黒いタイツを履いていた。  可愛い!  絶対領域ヤバい!  あのシャツ胸が強調されすぎ!  とか思っている場合じゃない。 「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」 「いたた……」  と、おでこを擦りながら立ち上がる女性。  でも……と続ける。 「これでおあいこですね」  そう言って、はにかんだ。  何コレ何コレーー!!  これ何めきメモリアル!?  不覚にもキュンとしてしまった。  僕は、えっと……と続けてこう聞いた。 「ところで、どちら様でしたっけ?」  なるべく失礼のない様、以前にもお会いした事ありましたっけ?という様な口振りで。 「えっ!?」  何故か驚いた様な表情を見せる女性。  どうして驚いているんだ?  僕そんなに驚かす様な事言ってないよね?  意味が分からんとばかりに首をかしげている女性。 「お父様から聞いていないのですか?」 「聞くって何をです?」  当然の如くそう聞き返す。 「何をって……今日から私達、兄妹じゃないですか」  当たり前の様にそう言った。 「歳は一緒ですけど、生まれの順で言ったら私は妹ですね」 「…………」  は? ……え? 「今日から僕の妹……?」 「はい。今日から宜しくお願いしますね。お兄さん?」  両手の指先を胸の前でそっと合わせ、恥ずかしそうに言った。 「……」  意味分からぁぁん!!  なんのこっちゃ!!  どういう風に話が進むとこうなるんだ!?  今日から兄妹て! 妹て!! 「本当に聞いていなかったのですか……?」  そんな言葉に聞く耳も持たずダッシュでリビングに駆け込んだ。  するとそこには、よく見知った親父の姿と、並んで一緒にソファーに座る見知らぬ女性の姿があった。  歳は親父よりも若そうに見える。  こう言ってしまうのも失礼ではあるが、中年の親父にはハッキリ言って似合わない様な綺麗な女性だ。 「ビックリした!?」  僕が口を開くより先に、そう言いながらおどけ笑う。  ビックリ? 何言ってんだ、この親父?  まるで状況も掴めないし、その言葉の意味も分からないしで、内心イラッとした。  そんな僕に構いもせずに、ゴホンと少し咳ばらいをして照れたようにこう続けた。 「こちら、白石優花(しらいしゆうか)さん。目依斗のお母さんになる」  そう言って隣に座っていた女性を紹介した。  ハァアァアァア!!?  何この親父!? まじで意味が分からん! 今日から僕のお母さん!? どういう事!?  考えている暇もなく優花さんが話し始める。 「いきなりでビックリしたでしょう? 本当にごめんなさいね……」  そう言って深々と会釈をした。  どことなく言葉にも気品が漂っている。 「だから私は事前に目依斗君にちゃんと会って、しっかりと納得いくまでお互いに話し合ってから決めたかったのに!」 「いや、だってこの方が面白いかと思って」  照れ笑いをする気味悪い親父がそこにはいた。 「子供ですか!? というか、そんな理由だったんですか!?」  優花さんがツッコミを入れる。 「目依斗君……まさかとは思うけれど、私達の事何も聞いていなかったりは……してないよね?」  若干顔が引きつっている。 「何も聞いてないですけど……」  ガガーンと漫画の様な表情を見せる優花さん。 「ちょっと!! どういう事ですか!?」  凄い剣幕で親父に()(ただ)している。  どうやら優花さんは、親父が僕に話はしてあったと思っていた様で、突然パニックに陥っている。何やら言い合いを始めてしまった。  それを見ていた僕は少し冷静になり、どうしたもんかと考えていると、先程ぶつけ合いあってしまった女性がリビングに戻ってきた。 「あの……何かあったんです?」  戻って来て早々、何があったのか分からず、ぼーっとその様子を眺めていた僕に困惑気味に聞いてきた。正直僕が教えて貰いたい位なんだが、当たり障りのない様こう言っておいた。 「まぁ……色々と」 「色々……ですか?」 「うん、色々……」  苦笑気味にそんなやり取りを交わした後、親父と優花さんの間に入る。 「ちょっと二人共落ち着いてって!」 そんなベタな台詞を吐きながら宥めていると、後ろから笑い声がした。 「プッ……フフフッ」  その笑い声に遮断されて、声の主の方へ振り向く僕ら。 「フフッ、ご、ごめんなさい。こんなに明るい雰囲気、久しく味わっていなかった感覚だなーと思って」  と、照れくさそうに話す女性。  その言葉で場の空気が和んだ気がした。  落ち着きを取り戻した僕達は、改まって話をする事に。  食卓用テーブルの椅子に僕とその女性が隣同士に座り、その対面に親父と優花さんが座る形となった。  何とも言い表しがたい空気の中、最初に口を開いたのは親父だった。 「それじゃあ、カンパーイ!」 「乾杯する飲み物何も出てねーよ!」  すかさずツッコミを入れる。  相変わらず適当な親父だ。  昔っから全くと言っていい程変わってねーな、このオッサン。今更だけど家の親父は、人生ノリだけで生き抜いてきたみたいな、そんないい加減な性格をしている。昔からサプライズが大好きで、僕なんかはよく驚かされていた。  仕事はビジネスマンとでもいうのか、よく海外等にも出張している。詳しい仕事内容は、実を言うと僕も良く分かっていなかったりする。  まったく、少しは成長しろっつーのな。  子供にそう思われてしまう親もどうかと思うが。 「まぁ、冗談はこれ位にして」  と続ける父。 「目依斗には話してなかったけど、俺、再婚する事にした!」 「まぁ、そんなとこだよな」 「あれ、目依斗君察しがいいね~。もっと驚かないの?」 「もう十分過ぎる程驚いたっつーの」  親父の言っていたお母さんという発言に、優花さんの言っていた事、僕の隣に座っている女性の今日から兄妹という発言をまとめてみると、つまりはそういう事だろう。  何が察しが良いだよ。  むしろ落ち着いてから考えてみると、それ以外の答えが出てこねーよ。
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