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せいやが右手でとんとんと車椅子の手すりを叩くのを合図に、一人の男がバットのようなものでなちの左手を殴打する。
「あ~~っ! あ、ああ~っ!」
ロビーに響き渡る叫び声。
けれども、誰もその声が鎮まるのを待ってはくれない。
続けて二度、三度。
振り下ろされたバットは、なちの両足を交互に叩き潰した。
正確には動けない程度に打ち付けた、と表現した方がいいだろうか。
どちらにしても、冴木なちには気の遠くなるような痛みが何度も体中に響き渡り、思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫が、都度その口から紡ぎだされた。
「あ~……あぁ……」
最早、泣き声なのか怒鳴り声なのか、その声の根源が解らない。
ただ、どれだけ顔を涙で濡らし、どれだけ喘ごうとも、なちの目はせいやのみを睨みつけていた。
「僕の趣味ではないが、月並みな言葉を送ってやろう。その痛みはお前が今まで他人に与え続けたものだ」
「はぁ……ふぅ……」
「もっとも今の場合は、前提としての状況を作り上げる為だ。お前は一度自らの勝手な判断でゲームを降りている。お前を自由にしておくと、再びルールを無視して僕を然るべき方法以外で殺しかねない」
その言葉通り、なちは噛み付いてでも殺すくらいに、既にせいやを恨んでいた。
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