或る春の日のこと

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 ある山のふもとの小さな家に年端もいかない少年が住んでいました。 「おばあさん。最近では畑に熊が出るそうです」 「春だからね。冬眠から覚めたのだろう」 米と味噌汁だけの質素な朝食をおばあさんと取りながら、少年は憂鬱でした。 「そういえば、もう春ですか」 「鼻の調子はどうだい。まだ甘いのかい」 少年の鼻水は蜂蜜でした。甘いのかいとは文字通り鼻水が甘いのかということでした。 実際少年の鼻はグズグズと蜜を鳴らし始めていましたが、そう言うとおばあさんは大層心配するので大丈夫だと言いました。  少年は山を一つ越えた小学校へ通っていました。この年頃の子供はひどく手痛い言葉を臆面もなく浴びせます。 少年は春になり花粉を浴びると同時に級友達の罵声をシャワーのように浴びせられるのでした。それが少年が憂鬱になり、おばあさんが心配する理由でした。
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