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青く青く澄み渡り、何処までも広がる広い空に、それを彩るように散らばる白い雲。それは、まるで窓枠という縁の中に描かれた1つの美しい芸術品のようだ。
数学の授業中、何気なしに窓の外を見ていた早坂浪恵〈ハヤサカ ナミエ〉は、ふとそう感じた。広く寛大な空を見ていると、人間というモノは本当に小さな存在なんだと痛感させられる。
だがその空だって無限ではない。限りのあるモノなのだ。
そのまま何も考えず、ぼーっと見てるのも良い気がする。しかし、もう少しあの空を近くで感じたい。決して届く事の無い空に触れてみたい。
そう思った浪恵は、授業が終わると教科書を机の中にしまい、カタリと音をたてて席を立つ。その音に反応した前の席の花村早紀〈ハナムラ サキ〉は、後ろを振り返って首を傾げた。
「浪恵?どうしたの?」
「ちょっとサボってくるよ。次の教師に言い訳宜しく」
「えっ狡い!私も!」
「早紀はちゃんと勉強しなさい」
「むぅ…」
早紀にまた何か言われる前にと、浪恵は教室を出て廊下を早足で歩く。屋上へ続く階段は1つしかなく、浪恵の教室とは真反対の位置にある。そのため、階段前に着いた頃には授業開始のチャイムが鳴り始めていた。
屋上の扉にたどり着く時には既にチャイムは鳴り終わっており、静寂が辺りを支配している。
ギィィィ…と、重く錆びれた扉を押し開けた。
基本何処の学校でも屋上の扉とは鍵がかかってるものである。しかし浪恵は、“たまたま”職員室に落ちていた鍵を拾い、教師に返すのを“たまたま”忘れ、“たまたま”家の鍵と間違えて屋上の鍵を複製してしまった為、屋上への出入りが自由となっていた。
「……蒼いなぁ…」
「っ!?」
ふと、空を見上げ誰に伝える訳もなく呟いた言葉は、目の前にいた少女の耳にしっかりと届いた。少女はポニーテールの髪を揺らしながら、浪恵の方へ振り返り目を見開く。
対する浪恵は、そんな少女の表情に気付いているのかいないのか、特に反応する事もなく少女がいるフェンス付近へと歩みだした。
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