試合〈ゲーム〉開始はささやかに

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  「………どういう意味?」  睦は、表情を変える事なく言ってのけた浪恵を睨むように振り返る。だがやはり、そんな顔を向けられても浪恵は怯まない。  むしろ、より愉しそうに、笑う。 「簡単な事さ。君が死んで、君を虐めていた人達が罪悪感を感じる?ふん、馬鹿馬鹿しいね。くだらない。そもそも、君1人死んだくらいで罪悪感を覚える人間が、君を虐めようと考えると、本当に思うのかい?」  浪恵は、淀みなく話す。まるで、あらかじめ用意されていた台本を読んでいるかのように、その言葉は滑らかに紡がれ続けた。 「君1人死んだって、何も変わりはしないんだよ。皆皆、所詮は他人事。数学で言う独立試行さ。Aが起きてBがなった。だからと言ってその二つに関係性は無い。なまずが騒いだら地震が来た。だからといって地震が来る前になまずが必ず騒ぐ訳じゃない」 「えっ…と?つまり?」 「つまり、その人達が殺した訳じゃないのなら、彼らが罪悪感を感じる必要性は無いんだよ」  浪恵の言葉に、睦は何も言い返せなかった。確かに、もし自分が虐めた側なら虐めた人間が自殺しようと、自分とは関係無いと考えるだろう。だって、自分が殺した訳じゃないのだから。  それじゃあ、私のしようとしていた事は何?無駄な事なの?  睦は分からなくなり、フェンスを掴んだまま危なげに座り込んだ。 「わ、私…」 「根本的に考えるんだよ。君が死のうと思ったのは、何故?罪人に罪悪感を?……本当に?」 「だって…私、は…あの人達に…」  目が泳いでいる。これはごまかそうとかじゃなく、思考を巡らせているだけのよう。  ぐるぐると考え込む睦に手を差し延べるように、浪恵は更に畳み掛ける。 「罪悪感を与えたい。そう思ったのは何故?どうして?」 「…悔しくて、私の話を聞いてくれないのが、辛くて、憎くて、恨めしくて、」  そこで一旦言葉を詰まらせると、座り込んだ体勢から顔を上げた。その表情は悲しみと苦しみが入り混じっていたが、その瞳だけは強い決意を秘めた色をしていた。 「……皆に、復讐、したくて」  それを聞いた浪恵は、まるでそれを待っていたかのように愉しそうに笑う。  そう、それで良い。私はそれが聴きたかったの。まるで、そう言っているようだ。  すると浪恵は近くのフェンスの扉を開き、睦を内側へ引きずり込む。 「その復讐劇、私も参加させてくれない?」 .
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