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「異動、ですか……」
「そう。異動だ」
流れるような字体で書かれているそれは、間違いなくレイスの異動を示していた。それは間違い無い。しかし、
「本当に、異動で済むんですか…………?」
レイスにはそれが信じられなかった。つい先日、思い出すのもはばかられる失態を自身の着任式で犯してしまったにしては、随分と寛大な処置だ。
そう思っているのは、レイスだけではないらしく、
「ご寛容にも、姫様自身が国王様に掛け合ってくださったそうだ」
レイスの上司──ジェノサイも、やや困惑しているらしい。
しかし、彼の場合は、処置の寛容さに困惑している以上に、
「……………………ミレディ様が?」
この国──マルナの第三王女ミレディ=メル=レイゼンリュールが、父である国王──グラウス=ザリア=レイゼンリュールに対して、たかだか一介の騎士に過ぎないレイスのことを掛け合ったということに困惑しているようだった。
先日、あの式典まで一度の会話すらしていない一人の騎士を、騎士を心底嫌っているという噂のミレディ第三王女がかばう形になっているのだから、困惑していて当然ではあった。
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