序─はじまり─

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 ジェノサイがあのあと直接ミレディに理由を訊きに行ったが、はっきりとした答えはもらえなかったらしいと、多くの人間が噂していた。その話はあっという間に広がり、その結果、質問の矛先はレイスへと向けられた。ジェノサイと同じように、質問の内容をどことなく濁したものがほとんどだったが、数人は直接的な言葉で、レイスがミレディを脅したのではないか。と言い掛かりに等しい言葉を投げかけてきた。しかし、レイスはどんな訊き方をされようが、分からない知らないと答える他に無かった。理由を知りたいのはレイスも同じだ。  食事時など、多くの人と接することの出来る時間には、レイスも、何か少しでも知っている人はいないか、事実かは分からなくてもせめて何かそれらしい噂だけでも聞いていないか、と積極的に多くの人に話を訊いていたが、誰一人としてそれらしいことすら知っていなかった。そのまま今日に至る。  もやもやした気持ちを抱え込んだままではあるが、明日になればもう関係の無いことでもあった。今回のことがあったのだから、おそらく何年経とうともこの城に戻ってくることはもう無いだろう。いまさら理由が分かったとしても、そこには一つの意味も無いのだ。
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