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ルイ・アランは落下した。
長いようで短い落下の感覚。重力に全身が捕われるのを感じ、内臓が慣性の法則に従うかのように浮き上がる不快感――そして、床との激突。
「俺、今まで知らなかった。君がどれほど俺の身体と心を癒してくれていたのか……。失った今なら分かる」
呆然とした表情で彼は呟いた。目からはうっすらと涙が滲んでいる。それが身体中の痛みをキャッチして脳が出した指令によるものなのか、喪失感によるものなのかは定かではない。
「世界は不思議に満ちている。確かに今の状況も不思議だが、俺は今、どうして俺が君をもっと大切にしてやれなかったのか……それが一番不思議だ」
後頭部、両肩、腰、踵といった身体の裏側に残る疼痛。それは今し方、ルイにとって驚愕に値するできごとが起こったことの証拠であった。
「消えた……」
今、彼はごくごく一般的な家庭にあるようなフローリングの床に大の字に寝そべっていた。
「俺の恋人といっても過言ではないベッドが……ないっ! うあああああっ!!」
朝10時半。春休みとはいえ、だいたいの人間が起床し、活動を始めているであろう閑静な住宅街に、彼の悲鳴に近い雄叫びがこだました。
そう、この物語は、とある青年がベッドの突然の消失によって床へと1メートル弱滑空した後、痛みに悶えているところから始まる。
春休みが始まってから数えて43日目、セメスター末のテストで回転を増した脳もいい感じに緩み、堕落という名の至福を堪能していた矢先のできごとだった。
数分前まで、ルイはまどろみの中にいた。ベッドの上、ぬくぬくと暖かい毛布に包まれ、惰眠を貪っていた。枕に乗る顔は安らぎに満ち、昼前の明るい光が顔を照らしても、ピクリともしなかっただろう。耳元で叫んでも、身体を揺すっても、恐らく隣でダイナマイトが爆発しても、岩のように堅く閉じられた瞼は開かなかっただろう。
しかし、彼は起きた。睫毛の長い、二重の目を開いていた。
「取り敢えず状況を整理してみよう。おはようございます」
取り敢えず口に出してみる。何のためかは不明である。自分の脳が覚醒していることを確かめるための手順のようなものだ。つまり、言ってみただけである。
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