1 怪異の足音

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「うるせえのはお前だ。漫画お決まりの展開よろしく早朝から俺ん家に上がり込みやがって。どういう了見だコラ」 「あんだとコレラ! アンタが春休みで、寝ること以外することがなくて暇してるだろうから来てやったんじゃないか! っていうかアンタの早朝は日本人とかけ離れすぎね!」 「1文字多い! 俺は致死率大の病原菌じゃねえし、れっきとしたジャニーズだ!」 「1文字足りねえ!! それは税金納めてから名乗りなさい」  咲穂の物言いは、売り言葉に買い言葉といった感じで、女性が使うには粗暴過ぎる言葉遣いである。 「それに、暇じゃねぇよ。今、俺は人生史上最大級の命題に挑んでるわ! たった今、最終定理を解き明かしたところだ」 「はあ?」 「分からんか……お前の目はフジアナだな」 「少なくともあたしの眼球はフジテレビの女子アナではない」  咲穂のツッコミには反応せず、ルイは立ち上がる。仰々しく両手を広げながら。ついでに一回転。 「見よ、この部屋を。理路整然と整えられた我が部屋に起きたクライシスを」  咲穂の目が点になる。寝具一式が失われたことにようやく気付いたか、とルイは思っていた。実はどや顔で仁王立ちである。 「ちょっ、アンタ、この変態! そんなもんあたしに見せんな!」 「は?」  咲穂の視線が注がれているのは、ルイの足元。そして、みるみるうちに咲穂の頬が紅潮していく。まるでタコのようだと冷静に観察していたルイだが、何かがおかしいと、先程まで自身が座っていた床を見遣る。 「あ」  そこはついさっきまでベッドが鎮座していた場所。前述の通り、ごく一般的なフローリング。綿埃が散在しているが、問題はそこではない。  いわゆるベッドの下。そこに実家暮らしの大学1年生男子が隠していたとある本。  先程までルイの臀部(でんぶ)で孵化前の卵よろしく温められていた冊子の表面には、官能的な表情を浮かべた女性が淫らな格好でルイを見つめていた。
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