1 怪異の足音

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 日本人とロシア人のハーフとなるらしいルイもまた、彫りが深い白皙(はくせき)の肌、ストレートの金髪に加えて、青い瞳を持ち、美青年に違いなかった。咲穂いわく、性格が暗いため、魅力がないらしい。  確かにルイの口癖は“俺なんか”とかそういったネガティブなものばかりだ。昔からルイは、自分は誰にも必要とされない、存在自体が迷惑なのではないかという謎の罪悪感に苛まされてきた。なぜそのような考えを持つようになったのか……とにかく物心つく頃からそのような暗い性格であり、当然のごとく友人も少ない。 「桃色雑誌とは……けしからんな」  まったく訛りのない流暢な日本語でマルクは言った。なぜか家族会議に参加し、円卓を囲んでいる咲穂もうんうんと頷いている。彼女は唯一のルイの友人と言える存在だった。咲穂の前でだけは、ルイも自然に振る舞えるのだった。 「いやそれ議題違う。今、話し合うべきは俺のベッドだ。ベッドが忽然と姿を消したんだぞ?」 「アンタ、昨日食べたんじゃない?」  咲穂が真面目な顔をして言う。 「俺どんだけ成長期?」 「いや、お前の成長期は終わってる。父さんには分かる」  と、自信ありげにマルク。論点はずれているが。 「あとは横に育つだけね。ああ、やだやだ」  と、咲穂。ベッドを食べたら恐らく腹を壊してむしろ痩せるだろう。 「無茶苦茶言うな。とにかく、ベッドだ。あれがないと寝れない!」  ルイがバシンと机を叩いた。 「あら、ベッドがないなら犬小屋で寝ればいいじゃない」 「黙れ平成のマリー・アントワネット。俺とミルクは同棲にはまだ早い」  アラン家の愛犬ミルク、ゴールデンレトリバー。金色の毛皮が眩しいピッチピチの2才半。ちなみにオスである。 「まあ、仕方ない……取り敢えずは来客用の布団をかけて床で寝なさい。そしてあまりの背中の痛さで夜中に何度でも起きるといいよ」  と、父マルク。笑っている。 「それが親の言うことか!」  と、息子ルイ。 「よし、話はまとまったわね。では、予定通り花見に行きましょう」  と、咲穂。ちなみにそんな予定はなかった。 「唐突だなおいっ?! ってか全然まとまってねえよ! ……聞けよ!!」
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