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――しかし、数秒後。俺は自身の想像力の欠如に驚く事になる。
「い、いやぁ、それにしても、雫ちゃんがこんな趣味があったなんて知らなかったなぁ」
「?趣味ですかぁ?」
「この手錠の事だよ。俺、流石にそっち方面には疎いからさぁ」
「あぁ、それはですね」得心がいったという様に、暗がりで雫ちゃんは笑う。「“躾”です♪」
「―――へぁ?“躾”?」
星明かりしかない一室。視界はもちろん最悪なのだが徐々に慣れてきて、加えて、彼女の方もこちらに近づいてきてくれたから、俺は雫ちゃんの姿を把握する事が出来た。
『男の生首を大切そうに抱えた雫ちゃんの姿を確認する事が出来た』。
満面の笑顔で、彼女は言う。
「この子が“チィちゃん”ですよぉ」
「―――ッッッ!!?うわッ!!ワアァァァァァァッ!!!」
意味が分からない!!意味が分からない!!意味が分からない!!ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイッ!!!
胴体から切り離された首。そこには苦悶の表情。え!?は!?何だ!?これドラマ!?こんな事が現実にあるのか!!?
「手錠はごめんなさいです。でも、昨日チィちゃんが逃げ出そうとして、私思わずスタンガンの電流を流し過ぎたんです。だから、その手錠は教訓。今度は、逃げられない様に」
テへへと、恥ずかしそうに雫ちゃんは笑う。
「ヒィ……アァァァッ!」
俯瞰された意識がやけに冷静で、それが輪を掛けてキモチワルイ。
「私、先輩の事好きですから。まだチィちゃんが死んで悲しい気持ちは残っていますけど、でも、もっともっと先輩を好きになりますから。だから……」
俺の叫びは既に人間の声では無い。足掻いても、足掻いても、繋がれた鎖がほどける筈もなく、ただただベットの上で跳ねる、まな板の上の鯉。
場違いながらも思った事、それは、チィちゃんは星空を眺めるのが好きだった訳ではなく、ソレ以外の娯楽が無かったのではないかという、間抜けな疑問。
解答者は既にいない。呼吸器官から切り離されている彼は、魂になってこの部屋にいるのかもしれないが、それを確認する術は無い。
雫ちゃんは笑う。このホラーな空間で、天使の様に微笑み、俺に向かって愛の言葉を投げ掛ける。
「――だから、ずっと一緒に、星空を眺めていて下さいね先輩♪」
――その笑顔を、最早俺は拒絶する事すら許されないのだった。
―了―
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