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「大マジさ。小さい頃だけどね、弟と一緒に河原に捨てられた廃車の中で子犬を飼っていたんだ。……けど、ある日台風が直撃してね。川の水が増水。俺は弟と、心配になって様子を見に行ったんだけど、……子犬は、その廃車の上で、必死に鳴いてた」
雫ちゃんが息を飲む。彼女から視線を外し、俺は両手を組んで額を押さえた。
「犬語は流石に分からないけど、あの時の声は今でも耳に残っている。あれは……叫んでたんじゃないかな……助けてってさ」
「…………先輩」
それを聞いた雫ちゃんは、またもや鼻を鳴らし始めた。
「……ふ…っ…ぐす……、ふえぇぇぇ……」
「ああッ!何も雫ちゃんが泣かなくっても。もう過ぎた事だし。ね?」
聞けばどこかで聞いた事のある話だろう。もちろん、即席3分で作ったでまかせだ。前に見た映画の中にある、エピソードのごくごく一部でしかない。
その映画の中では、『お涙ちょうだいの三大要素』に『子供』、『動物』、『貧乏』を挙げており、以前、別の娘に試しに使った時は効果抜群!見事にその実用性を実証したのだった。
そして今回も。どうやら、俺みたいにおちゃらけた人間が哀愁漂う表情を見せると、母性本能?とやらがくすぐられるらしい。
俗に言う、“ギャップ萌え”というヤツなのかもしれないな。彼女ハートに突き刺され!キュンの矢!!
「ワンちゃんの……名前は?」
「えッ!?……あぁ、な、名前ね!あ~、ぽ、ポルナレフ!ポルナレフ・チャーリードラクソン!」
「……?ワンちゃんですよね?」
「そうそう。長いから皆『ポチ』なんて呼んでたりしてね」
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