笑顔3

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架空のワンちゃんの名前を問いただされ、少々焦った。 それこそ即席で考え、とっさに口にしたのは中学の頃の知り合いが飼っていた犬の実名。 ふざけた名前だと、当時はバカ笑いしていたけれど、今は変な具合に、俺の窮地を救ってくれたのだった。 サンキュー・ポルナレフ。お前はまだ生きているかい? すると、近くからクスクスと、くすぐったくなる可愛らしい声が耳に届く。 望郷の念に駈られている場合じゃねぇ。ある種の予感を感じ、俺は雫ちゃんの方を見る。 ―――そして、心の底から震えた。 視線の先の彼女からは、笑顔が溢れていたのだった! 目に溜めた涙を、綻んだ瞳が振るい落とす。 口元に手を当てて、声を殺す様にしながら、可笑しそうに。少し、恥ずかしそうに。 俺はこういう酒の席では、徹底して道化を演じるのだが、今日の今この瞬間ほど、自分の役柄に歓喜を覚えた記憶は無い。 生きてて良かったッ!!いや、目の前に天使がいるって事は、俺はもしや死んでいるのではあるまいな!? 笑いを堪えながら、顔を真っ赤にして、天使は言う。 「も、もう!私、とっても悲しかったのに……、こんな――笑わせないで下さいよぅ!」 ……やばい。久しぶりに胸の動悸が激しさを増す。 ……まさか、俺は彼女に“マジ”になりかけているのではないだろうな? 「先輩って、面白い方なんですね。……ヒゲなのに」 「“ヒゲなのに”じゃなくて、“ヒゲだから”面白いんだよ俺は」 自慢の顎ヒゲを、俺は愛でる様に撫でた。 このヒゲの所為で、やれ『軽そうだ』とか、『むさ苦しい』等と、レディ達からはいらぬ非難を被せられる事もしばしばで、一度は剃り落す事も考えたが、今度からはもっと大事にしてやろうと思う。 コンディショナーでたっぷり梳かしてやっても良い!
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