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架空のワンちゃんの名前を問いただされ、少々焦った。
それこそ即席で考え、とっさに口にしたのは中学の頃の知り合いが飼っていた犬の実名。
ふざけた名前だと、当時はバカ笑いしていたけれど、今は変な具合に、俺の窮地を救ってくれたのだった。
サンキュー・ポルナレフ。お前はまだ生きているかい?
すると、近くからクスクスと、くすぐったくなる可愛らしい声が耳に届く。
望郷の念に駈られている場合じゃねぇ。ある種の予感を感じ、俺は雫ちゃんの方を見る。
―――そして、心の底から震えた。
視線の先の彼女からは、笑顔が溢れていたのだった!
目に溜めた涙を、綻んだ瞳が振るい落とす。
口元に手を当てて、声を殺す様にしながら、可笑しそうに。少し、恥ずかしそうに。
俺はこういう酒の席では、徹底して道化を演じるのだが、今日の今この瞬間ほど、自分の役柄に歓喜を覚えた記憶は無い。
生きてて良かったッ!!いや、目の前に天使がいるって事は、俺はもしや死んでいるのではあるまいな!?
笑いを堪えながら、顔を真っ赤にして、天使は言う。
「も、もう!私、とっても悲しかったのに……、こんな――笑わせないで下さいよぅ!」
……やばい。久しぶりに胸の動悸が激しさを増す。
……まさか、俺は彼女に“マジ”になりかけているのではないだろうな?
「先輩って、面白い方なんですね。……ヒゲなのに」
「“ヒゲなのに”じゃなくて、“ヒゲだから”面白いんだよ俺は」
自慢の顎ヒゲを、俺は愛でる様に撫でた。
このヒゲの所為で、やれ『軽そうだ』とか、『むさ苦しい』等と、レディ達からはいらぬ非難を被せられる事もしばしばで、一度は剃り落す事も考えたが、今度からはもっと大事にしてやろうと思う。
コンディショナーでたっぷり梳かしてやっても良い!
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