6人が本棚に入れています
本棚に追加
「――ならさ、今度は俺が一緒に星を見るよ。雫ちゃんの隣でさ。ずっと二人で星を見ていようよ」
「…………」
肩から下げられた彼女の腕に、ギュッと力が入る。
鼻をすする音、小さく震える体。
本音をぶちまけてしまえば、俺が欲しているのは一晩だけ胸の内に空いた空白を埋めてくれるだけの温もりでしか無いのだけれど、……無かったのだけれど。
この数時間の間、彼女の世話を焼いている内に何かしらの込み上げるモノを感じるのも、また確か。
“愛情”なんてものは所詮“肉欲”の裏返しで、
誰しもが結局のトコロ“打算的”に生きていると信じていた俺にとって、雫ちゃんはあまりにも無防備。
本当に心が弱ってんなら、こんな飲み会に参加すんなよ。
優しい言葉に酔わされて、パカパカ酒を煽るんじゃねーよ。
だから、俺みたいな“本能に忠実な馬鹿”にとっ捕まるんだよ。
「――先輩、優しいんだぁ」
鼻声でぐずぐずになった声で、とろける様な事を言う。
だから――もっと今の状況に危機感を持つとかさぁ。
「ヒゲ……だからね」
「ヒゲだと優しいんですか?」
「もちろん。ヒゲは紳士の証だぜ?」
「ヒゲだと逃げたりしないんですか?」
「ん?まぁ、ヒゲは勇者の証明だからね」
ヒゲの株がストップ高だ。雫ちゃんはコロコロと笑う。
そして、見知った道に出たのだろう。急に大声を上げた。
「――あぁっ、そこのマンションです。505号室」
「……おいおい」
見えたマンションは、いかにも一等建ての雰囲気漂わせていて、外観からしてやたら綺麗。防音・防犯設備もしっかりしていそうな高級感に溢れている。
それなのに、彼女は今日会ったばかりのヒゲ男子に、実にあっさりと部屋番号を告げてしまった。
彼女の家がマンションというのも予測外だが、部屋番まで教えてくれるなんてもっと想定外。
いや、好都合と言えばその通りだし、手間が省けたと言ってもお釣りが出るくらいの幸運だけど……、それで本当に良いのか乙女よ!?
最初のコメントを投稿しよう!