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「俺、行くね」
ひとりの時間は苦手。
暇って時間は苦手。
余裕があるのが苦手。
でもあたしは
「いってらっしゃい!頑張ってね!」
考えたくないから。
何もかも考えたくないの。
ドアの締まる音。
歪んでいく表情。
ひとりでいるのが怖いわけじゃない。
怖いのはあたしの記憶。
あの日、あなたを見送った駅。
あなたの流した涙。
あなたの言葉。
鮮明に目に焼き付いた景色。
自分から身をひいたくせに。
涙も出なかったくせに。
好きと言えば届く距離。
こんなにも簡単に届く言葉。
でも届かなかった手。
繋ぎ止める勇気も自信もないのに
諦める勇気も隠し通す強さもない
かっこわるくて弱虫なあたし。
少しでもかっこつけて
自画自賛してみなきゃ
自我なんて保てなかった。
好きと言葉にするほど
胸がきしむのが分かった。
届かないんじゃなくて
届けちゃいけなかった。
蘇る記憶があたしを不安へと
追い込んでいく。
止まらない。
もうあの時は来ないのに
終わったことなのに。
あたしは―……
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