序章

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暴走したソレとの決戦の跡地に、二人の人物がいた。 一人は日本人特有の黒髪を伸ばし、後ろで結んでいる優しげな瞳と顔立ちをした青年。 一人は染めているのであろう明るい茶髪に、ピアスを片側だけ着けている今風の青年。 二人は何をするでもなく、肩を並べその跡地に佇み、光景を目に焼き付けていた。 そうしていると、黒髪の青年の方が光景を目にしながらぽつりと呟く。 「これで終わりか」 「ああ、そうだな」 黒髪の青年のそれは独り言のようではあったが、茶髪の青年もまた光景を見据えながらそれに応えた。 「やっと、眠れる」 「っ、ああ……そうだな」 再び黒髪の青年から言の葉が零れ落ち、茶髪の青年はそれに答えようとしたが、どうしてか言葉に詰まってしまう。 それでも、茶髪の青年は一呼吸置いて声を震わせながら、何とか言葉を紡ぐ。 「なんだ、泣いてるのか? 前にも言っただろ? 俺は消える訳じゃない。ただ、在るべき存在(すがた)に戻るだけだって」 そう、茶髪の青年は泣いていた。 これから起きる別れを知っているが為に。 「わかってる。わかってるさ、そんなこと」 涙を止めたい。 最後くらい笑って見送ってやりたい。 そう思ってるはずなのに、涙は一向に治まる気配を見せない。 茶髪の青年は上を見上げ、歯を食いしばった。 涙を零さないように、笑顔で送り出せるように、今だけはと静かに泣いた。 「ならいいさ。みんなのことは任せて良いよな?」 黒髪の青年は、それに気付きながらも話しを続けた。 「……勿論だ。任せとけ」 茶髪の青年も完全に涙声になりながらも会話を続ける。 だが、それも一言二言が限界だった。 それからは二人ともが口を閉ざし、今までの記憶を思い起こしていた。 暫くそうしていると、その時を黒髪の青年が告げる。 「ああ、もう時間みたいだ。みんなに伝えてくれ。……ごめんって」 この先の不安を感じさせない、安らぎを与えるような声色だった。 そして不意に、茶髪の青年の横にあった気配が消えた。 「っ、最期の言葉が、ごめん……かよ。親友(ばかやろう)」 茶髪の青年はそれを感じながらも横は見ず、何もない正面に向かって泣き笑いを浮かべ、最後の言葉を友に贈った。 「またな。またいつか、親友(しんゆう)」 黒髪の青年を見送った茶髪の青年も、またこの場から姿を消した。 いつか、また馬鹿な親友と会える日を願って。
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