一章 記憶と人格

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目覚めた。 そう表現するのが一番しっくりきた。 「……なんで」 どうして、一番最初に思い浮かんだのはこの想いであった。 自分はあの時確かに消えたはずなのに、と。 困惑する中で思い起こしたのは、茶髪にピアスと今風のファッションを着こなしていた親友との最期の記憶。 あれは夢ではない。 間違いではない。 確かな現実であり、確かな真実であった。 だからこそ理解に苦しんだ。 否、理解が出来なかった。 在るべき存在(すがた)に戻るだけ、そのはずだった。 (……落ち着け。状況把握が最優先だ。冷静さを欠くな。これ以上のことだって何度もあった。経験してきたはずだ。まだ、何とかなる) 困惑する自身に言い聞かせ、深呼吸を繰り返し、自身を平静へと導いていく。 これは、昔からよくやっていたことだ。 冷静さを欠けば、命取りになるような世界に居た為、身に付いた癖でもある。 といっても、こんな事をやっている時点で命取りになる為、もう随分と前に治した癖ではあったのだが。 そうして、そんな事を繰り返していると、未だに落ち着かない部分もあるが、幾分かはマシになったらしく、状況の整理をし始めた。 分かったことは三つ。 一つは簡単に見つけることが出来た。 最後の記憶と比べ、身体が五、六歳の幼児程度に幼くなっていたのだ。 二つ目は、辺りを見渡してみて分かったことだが、どうやら彼が居るのは何処かのそこそこ大きい子供部屋のようであった。 二段ベッドや二つある机からみても、彼一人の部屋と言うわけではないようだ。 次いで、そこで彼は自身の容姿も確認することができた。 ちょうど、固定された姿見があった為、全体像も把握しやすかった。 容姿は多少の違いはあるようだが、日本人特有の黒髪に顔立ち、彼の幼い頃の姿とそう変わりはないようだった。 そして三つ目、彼にとってこれが一番重要な事だった。 三つの中で一番理解し難い、モノでもあった。 それは、自身の記憶にはない記憶というモノ。
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