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彼の記憶とは違う、別人の記憶。
これが指す意味とは、別の人格が確かにこの体に存在していたということ。
そして、その人格を今はもう感じられない。
つまりは、もう存在していないということだ。
(俺がこの子の人格を消してしまったのか? まだ、幼いこの子を殺したのか……?)
『人格を消す』それは、その人の死を意味するのと同義だ。
身体は所詮器でしかない。
大事なのは中身。
精神や人格、魂といったモノだ。
その人をその人だと決める代えようのない唯一無二のモノ。
それを消し去ってしまった。
この事に彼はベッドの上で呆然としてしまう。
心の内は、罪悪感、その一言に尽きた。
「不可抗力、なんて言えねぇよな」
彼は己の幼き両手を握り締めながら、心の内で奪ってしまった命への謝罪と、未だ流れ込んでくる子供の記憶を垣間見ていた。
そして何か思い悩んでいるらしく、顔をしかめる。
それを繰り返していると、漸く答えが出たようだった。
「……山城 湊(やましろ みなと)。それがこの子の、俺の、名前……」
それから暫く、握り締めていた手をゆっくり広げ、手の平を静かに眺める。
それは、この現実を真っ正面から受け止めようとしているようにも見えた。
事実、彼はある戒めとともに受け止めることを決断していた。
「今から、俺は、僕は山城 湊だ。一生涯を賭して山城 湊として生きよう」
これが彼が、山城 湊という人間になった瞬間であった。
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