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街は活気で溢れ、満たされていた。幾つもの商店が顔をだし、もう喚いていると云っていい程に声を張り上げている。はしゃぎながら走り回って親を困らす元気溢れる子供や、いかにも私は貴族であるという感じの風体をした太った男や、頭にバンダナを巻き膝を叩きながら笑っていている婦人達、それはもう沢山の人種が居た。
そんな中、短めに切り込んだ焦げ茶の髪を、自らの手でがしがしと掻き回している男がいた。その市場の光景を珍しいと言わんばかりに眺めている。
「まるで祭りだな。って、また言っちまったか」
今度は自分を嘲るような笑いを浮かべた。両手で顔を打った。軽快な音が響く。
「いい加減、慣れないとな。もう一週間になるし」
男は呟き、人込みをずいずいと進んだ。こういうところには遠慮が無い。やがて男は一つの商店の前で歩みを止めた。
看板には『ブラゲット店』と極太の力強い字で描かれている。赤レンガ造りだ。男はドアを開けて中を覗いた。カウンターにはだれも居ない。
「あー、居ますか?店主さん?」
大声で言うと右奥にある木製ドアが開いた。メガネを掛けた、少し細い男性が顔を出す。
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