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気のせいか。そう思って探してみても、無かった。
「ちっ、店に置いてきちまったか」
舌打ちして、エベルは元来た道を小走りに駆けて行った。
ブラゲット店の目前まで歩きさあ入ろう、というところでエベルの胸に妙な不安感がよぎった。この種の勘は良く当たる。……あまり嬉しくは無いが。
「なんだよ、財布忘れたのも神様の思し召しか?」
僅かだが怒鳴り声が聴こえる。急く気を抑えきれず乱雑にドアノブを回した。いや、回そうとした。
「開かないだと?まだあいつらがいるだろう」
体当たりを掛けた。もともと頑丈では無かったのだろう、すぐに外れた。
入ると、直ぐにか細い呻き声がかかった。
「エ、エベル君か……奥だ、早く……」
そこには頭から血を流した店主がいた。夥しい出血量だ。エベルは一瞥するとすぐに行動を起こした。
もう暗闇に包まれている店内は、幽霊の出てきそうな不気味な様相を呈していた。置かれている商品や、工具は荒れていない。が、奥へと通じるドアが半開きになっていた。エベルは立てかけてある鉄棒を掴む。緊張感に手汗が滲んでいた。
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