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目の前に広がる光景に、僕の制する言葉も無視して芭蕉さんは走り出していた。
芭「見て見て曽良くん!
菜の花畑だよ!」
曽「見ればわかります」
僕は仕方なくため息をつきながら芭蕉さんのもとへ歩き出す。
(まったく、いい年したオッサンが恥ずかしげもなくはしゃいで)
内心で悪態を吐く僕に目もくれず、彼は相変わらずはしゃぎまわっていた。
芭「あ!紋白蝶だ!待て~」
曽「芭蕉さん!」
芭「あ、こっちには黄色いのもいる!ヒャッホイ!」
ただでさえ旅路を急いでいるというのに、このオッサンは寄り道してばかりだ。
美味しそうなものや綺麗なものを見つけると、すぐ飛びついてしまう。
曽「置いて行きますよ!」
芭「蝶々~蝶々~菜の葉に止まれ~」
こうなってしまうと、もう何を言っても無駄だ。
僕の存在に、まったく気づいていない。
僕だけが、彼の世界から抜け落ちている。
(置いて行かれているのは……僕、か)
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