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その表情は完全に帰らないで、という表情なのに、イニスはその言葉を最後まで言わなかった。
「唐突すぎるんだってば……」
目深にかぶった帽子の中で、イニスは何度もまばたきをしていた。
あ、泣きたいのかな、と隣でそれを見ていて、俺は思う。
「ごめんね、でもやっぱりイニスの驚いた顔が見れたからよかった!」
いたずらっぽい性格はやはり遺伝なんだろうか、そう言った彼の兄さんも、彼とおなじく目尻を溶かして笑った。
だけどその言葉がいたずらが含まれているだけじゃないことは、俺にはよくわかる。
笑わせてあげたい、心から―――誰もが彼に向けてそう思うように、きっと彼の家族もそう願うんだろう。
驚かせたいだけで何の連絡もなく会いにくる人間はいない、と俺は思う。
心配性でさみしがりなイニスと再会して、別れようと思うと―――やはりそれなりの算段が必要だ。
会ったときの弾けるような笑顔と、―――別れ際の曇った表情はあまりにもギャップがありすぎて、彼を追いていく身としては―――ひどく、切ないんだろう。
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