逃避回想

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少女の体が宙を舞う。 「くそっ……!」 時間が止まったように思えた。 少女の驚いたように見開かれた目が、僕の方を向いた時。 僕は、心臓を鷲掴みされた。 デジャヴ。 いや、そんなことじゃない。 既視感ではない、強烈な違和感。 何かが……何かが違う。 何だ? 確かに、今目の前で起こったのはフラッシュバックではない、本物の現実だ。 だが、その相違からくる違和感じゃない。 何だ? 何故、僕はあの少女に心を奪われるんだ? 恋愛感情ではない、はず。 確かに少女の顔は美しいし、身なりだってこんな田舎に似合わない、大都会のお嬢様って感じ。 高級感溢れる服にリュックサック、という不揃いな格好。 これが、違和感か? いや、違う。 そんな小さなことじゃない。 もっと。 もっと…… 大きなこと。 今までの人生が一気にひっくり返されるような。 そんな違和感。 これはいったい…… ドサッッ! 僕の思考は、少女が田んぼの稲穂の中に落ちる音に遮られた。
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