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どのくらいの時間が経っただろうか……。
遠くで救急車のサイレンの音が反響するのが聞こえる。
まだ救急車自体は見えないが、この近くに来ているのだろう。
僕の意識はどこからか戻ってきて、再び少女の状態を確認する。
稲穂の陰から覗く泥にまみれた白いワンピースと細い足が、僕の冷静さを奪っていく。
やはり、少女はピクリとも動かない。
意識を失っているのだろう。
それとも、まさか……。
「そんなわけない。この子は助かる。絶対に」
何の確証もない、気休めにもならない言葉が口をついて出た。
「助かるんだ。うん、助かるに決まってる」
もう、誰も死んでほしくないんだ。
ニュースとかを見ていても、いつも思う。
人が殺人を犯す理由。
それは、人が愚かだからなのだろうか?
だから、口論や小さな理由からそんな暴挙に出てしまうのだろうか?
僕には、不思議でならない。
これは、父さんという命を犠牲に生き延びたからこその僕の考えなのかもしれない。
でも、不注意や争いで人の命が失われるのは、やっぱり納得いかない。
意識していなければ、ニュースに向かって自分の気持ちをぶつける。
恵美叔母さんは苦笑はしても、僕を止めることはしなかった。
人が生きなければならない理由。
それは、人それぞれだ。
でも、自信を持って言える。
人が死ななければならない理由なんて、ない。
絶対に。
絶対に、だ。
そうこうしている内に、待ちに待った救急車が到着した。
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