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母さんが先頭を歩き、そのすぐ後ろに少年のように笑う父さんと僕が続く。
この十字路は、幹線道路と大きな県道が交わる場所で、この付近だけ往き来する車が見受けられる。
「久しぶりの釣りだなぁ……」
「気が早いわよ、あなた」
「ははは」
いつも通りの和やかな会話。
家に着いたら恵美叔母さんも交えて、さらに話に華が咲く……
……はずだった。
そんな未来を。
キキィィィイイッ!
鋭いブレーキ音が切り裂いた。
「きゃあっ!?」
「武美、危ない!」
「母さん、父さんっ……うわぁぁぁああっ!」
当時、10才だった頃の僕の視界に飛び込んできたのは、
手を繋いだ状態で血溜まりの中に倒れる両親と、
自分の右手をつかむ父さんの無惨になった右腕と、
転がっている自分の右足だった。
「う、うわぁぁぁああっ!」
ただ声を上げることしかできなかった。
周りが急に騒がしくなる。
父さんが……母さんが……
僕の、足が……
「き、救急車呼べ!」
「事故? うわ、ヤバいよあれ……」
「あ、逃げたぞ!」
「ナンバー見たか!?」
「くそ、見えなかった!」
「誰か、警察呼んでこい!」
うるさいほどの喧騒に包まれた、僕の静寂の世界は、秋にしては異常な肌寒さと共に、闇に閉ざされた。
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