逃避回想

3/11
前へ
/80ページ
次へ
通学路上にあるため、必然的にあの十字路を通る。 4年前とほとんど変わらない。 高い塀があり見通しが悪く、ミラーもない曲がり角。 ここで、僕達は…… 意識しなくとも、あの光景が鮮明に思い出される。 母さんと父さんを轢き殺し、僕の右足さえも奪ったあの瞬間。 学校に行く時は、必ず見ている。 いや、見なければいけないんだ。 本来なら、被害者である僕がこんなことを思うのはおかしいのかもしれない。 でも、母さんと父さんと繋がれるのはこの時だけだから。 脳裏に蘇る、僕達が轢かれたあのフラッシュバックだけが、僕の慰めなんだ。 怒りが薄れないように。 悲しみを忘れないように。 母さんと父さんを心に、永遠に刻みつける為に。 ほら、またあの時のあの瞬間がフラッシュバック。 でも、僕はそれを拒まない。 悩まされることなんてもちろんなかった。 この十字路を通れば、いつでも2人に会える。 両親を失った悲しみ。 そして、大切な物を奪われた怒り。 それらを、毎朝十字路を通ることで胸に焼き付ける。 朝必ず僕がする、いやしなければならない儀式だ。 車椅子のハンドリムを押しながら、昨日も今日も、そして明日もこの十字路を通っていく。 永久に忘れない為に。 僕は、この十字路を通っていく。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加