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仔猫にフリンと名付けた人間は、それまで犬を飼っていた。
ク=フリンという神話の英雄が猛犬のようだとされていたから、番犬にフリンと名付けた。
犬が老犬になりヴァルハラ(天国)に旅立つ頃、飼い主は、人間の丁稚や手代が愛想良く店番、倉庫番をしてくれるような身分になっていた。
有閑な暮らしの慰みに、知り合いに仔猫を引き取らないかと持ち掛けられた。
富裕な商人はゴージャスな毛並みの座敷猫に、かつての愛犬の名前を付けた。
最初の飼い主が死ぬまでは、猫のフリンも、自分の名前がフリンだということぐらいしか解らない、ありきたりな猫だった。
動物が苦手な夫や妻と結婚した商人の子供たちが泣く泣くフリンを捨て、飄々とさすらう流浪の内にフリンの尻尾は二本になっていた。
猫は長い年月を生きると、魔力を持ち、知恵が備わる。
人間や亜人、精霊族の言葉と文字のいくつかと予知能力に数学を覚えた妖猫は、それでも、
『人に座敷猫として飼われるに勝ることはない』
と結論した。
最初の飼い主との思い出もあったろう。
齢100歳になった日から、普通の猫のふりをして、人に飼われる暮らしに戻った。
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