飛竜に乗って

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「マーズ、明後日から来月の10日まで、フリギアに行って来たいんだが」 呼びかけられた少年は、レタスとチキンのソテーを口に入れたばかりだ。 細い黒髪を清潔に短く切り、朱色の瞳をクリクリさせて、頬を膨らませている。 テーブルの反対側には、銀髪が印象的な妙齢の女が座っている。 やはり、髪は短くしていて、色気は少ないが賢そうな顔をしている。 少年と同じ料理を席に置いているが、まだ一口しか食べていない。 「…ゆっくり噛んで食え。 そのう…。 本来はフリギアにいる手筈だが、まぁこういうことなんで…あちらの宮廷の儀式を簡略して実施とか…そういうことらしい」 女は、育ての親に剣を習い、この錬金術士たちの国で王に当たる高位の学者に錬金術を習った。 身につけた技能で、国の高位の軍人として働いている。 少年は、女の従卒であり、剣と錬金術の内弟子である。 息子か弟に等しい。 女師匠は、とある事情で他国の王子と出逢い、結婚して当然の仲になった。 しかし、なぜか「婚約」止まりで国に留まっている。 マーズと呼ばれた少年は、師匠が不自然に国に留まる理由を、最近は薄々理解している。
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